法定福利費とは建設業の積算では必ず記載しなければならない重要な項目です。
この記事では法定福利費の基本から、積算時の注意点や計算の仕方についても解説します。
現在積算の仕事に取り組んでいる人はもちろん、積算の仕事に興味を持っている人もぜひ参考にご覧ください。
この記事の内容
法定福利費とは
法定福利費とは、企業が福利厚生として支払う費用のうち、企業に支払いが義務付けられているものです。
具体的には健康保険法や雇用保険法などの法律によって企業に負担が義務付けられている費用です。
それでは次に法定福利費の内訳や福利厚生費との違いをみていきましょう。
法定福利費の基本
法定福利費とは労働保険料や社会保険料のうち、企業が負担する費用分です。
様々な法律によって義務として企業の負担部分が定められています。
そのため、企業が独自に定めたような福利厚生に関する費用は、負担の義務はないため法定福利費には含まれません。
ざっくりとした計算ですが、社会保険に加入することで、企業が負担する法定福利費が約15%増えると言われています。
法定福利費の内訳
どのような費用が法定福利費に該当するのか、具体的に説明します。
法定福利費になるのは以下の項目です。
- 健康保険料
- 介護保険料
- 厚生年金保険料
- 労災保険料
- 雇用保険料
- 労災保険料
これらの費用は条件を満たした場合に支払いの義務が発生しますので、企業にとっては支出が増えることになりますが、従業員の生活を守るために必要な費用とも言えます。
法定福利費と福利厚生費の違い
法定福利費と福利厚生費は名前も似ており、会計上も間違えやすい点ですので、注意しましょう。
一番大きな違いは、「支払いが義務か、義務でないか」という事です。
先程も説明したように、法定福利費は企業の負担が義務として定められています。
しかし、福利厚生費は企業が独自に定めている福利厚生制度にかかる費用のため、法律によって支払いが義務付けられているというものではありません。
そのため、一般的な福利厚生費は「法定外福利費」と呼ばれることもあります。
福利厚生は、従業員のやる気を高めることや満足度を高めることを目的に企業が従業員に提供するサービスです。
例えば、企業が独自に設けた通勤手当や住居手当(社宅)、家族手当、健康診断費用、慶弔費、忘年会の費用等が福利厚生費に含まれます。
他には「消費税がかかるか、かからないか」、という違いもあります。
法定福利費はすべて課税対象となっていませんが、福利厚生費の多くは課税対象となっている点に注意しましょう。
また現金や旅行券、現場で必要な物品を支給する費用は福利厚生費に含めることができませんので、合わせて注意が必要です。
建設業は法定福利費を内訳明示した見積書が求められる
国土交通省では建設業に対し、法定福利費を内訳明示した見積書の提出を求めています。
そのため、工事の元請会社も下請会社に対して法定福利費の内訳明示を見積り条件に記載しています。
下請会社は法定福利費を見積書に記入していなければ、仕事を受注することができません。
義務化された背景や内訳の明示が必要な法定福利費の範囲など、詳しくみていきましょう。
平成25年から義務化
平成25年から見積書に法定福利費の内訳を明示することが義務化されました。
義務化された背景は、建設業では元来社会保険などへの未加入が多かったことです。
その対策として、保険加入の原資となる法定福利費を確保できるようにするために、見積書に法定福利費の内訳を明示することが義務となりました。
法定福利費が未払いであれば、法律違反となり、そのような会社は仕事を行うことができません。
そのため、義務化された後は法律を遵守している会社が仕事を継続でき、違反を行っている会社は仕事を受注できない環境へと変化しました。
内訳明示する法定福利費の範囲
内訳を明示する法定福利費の範囲について説明します。
具体的には以下の項目のうち、現場作業員の事業主が費用を負担する分が対象となっています。
該当する項目については見積書に内訳を記載することが必要です。
- 健康保険料
- 介護保険料
- 厚生年金保険料
- 子ども・子育て拠出金
- 雇用保険料
- 労災保険料
なお、法定福利費を見積書に記載する旨については、国土交通省の「「法定福利費を内訳明示した見積書」について」にて説明されています。
法定福利費の計算式
法定福利費は事業主が負担する費用です。
また保険ごとに負担の割合や算出方法が異なるため、算出作業を手間に感じるかもしれませんが、計算間違いをしないように注意しましょう。
従業員の年齢にもよりますが、社会保険料の支払い分を合計すると概算で約15%前後が目安になるでしょう。
それでは、それぞれの保険料ごとの具体的な計算式について説明します。
下記の6種類の法定福利費について詳しく見ていきましょう。
健康保険料
健康保険は従業員や扶養内の家族が病気やケガの治療の際に医療費が一部支払われる保険です。
健康保険料=標準報酬月額×料率で算出することができます。
全国健康保険協会の場合だと、都道府県によっても異なりますが、料率はおおよそ10%前後となっており、保険料は会社と従業員が1/2ずつ負担します。
介護保険料
介護保険は従業員が高齢になった際の治療や介護の費用を援助する保険です。
従業員が40歳になると保険料の負担が始まり、65歳で終了します。
介護保険料=標準報酬月額×料率で算出することが可能です。
介護保険の料率は都道府県によって異なりますが、料率はおおよそ1.5%前後となっており、保険料は会社と従業員が1/2ずつ負担します。
厚生年金保険料
厚生年金保険とは従業員が加入する公的年金の保険です。
70歳未満が加入の対象となり、老後や障害、死亡時など将来を支えてくれる大切な保険となります。
厚生年金保険料=標準報酬月額×料率で算出することが可能です。
料率は毎年引き上げられていましたが、2017年で一旦引き上げが終わり、2022年時点では保険料率は18.30%となっています。
保険料は会社と従業員が1/2ずつ負担します。
(参考:厚生労働省ホームページ)
子ども・子育て拠出金
子ども・子育て拠出金とは子育て支援にかかる費用を社会全体で負担するための拠出金です。
子ども・子育て拠出金は広い意味での社会保険料に含まれます。
子ども・子育て拠出金=標準報酬月額×拠出金率で算出することができます。
2022年時点では拠出金率は0.36%となっていますが、今後さらに拠出金率が高まる可能性があるでしょう。
拠出金の全額を会社が負担するため、従業員の負担はありません。
(参考:日本年金機構)
雇用保険料
雇用保険は従業員が退職した際や長期休業の時に支給される保険です。
他にも育児休業や介護休業を取得した従業員にも支給されます。
雇用保険=賃金の合計額×料率で算出することができます。
料率は事業の種類によって違いますが、建設業における料率は以下の通りです。
2022年10月1日から2023年3月31日までは従業員の負担料率0.6%、会社の負担料率1.05%となっています。
(参考:厚生労働省)
労災保険料
労災保険は従業員が業務中や通勤時にケガをした際や病気になった際などに支給される保険です。
さらには死亡した際や障害を負った際にも支給されます。
労災保険は一人でも従業員を雇用している企業は加入する義務があるものです。
労災保険料=全従業員の平均賃金×従業員の人数×労災保険率
労災保険料率は事業の種類によって異なりますので、労災保険率表を確認しましょう。
(参考:厚生労働省)
法定福利費の仕訳方法
法定福利費は会社が負担する部分と従業員が負担する部分があるため、仕訳が複雑になる場合があります。
間違いがないように仕訳の方法について、正確に把握しておきましょう。
法定福利費を仕訳する場合は「法定福利費」という勘定科目を使用します。
給与支払時、月末、支払い時という流れで考えることが重要です。
イメージしやすい社会保険料を例に見てみると、給与から従業員が負担する分の社会保険料を差し引いて、普通預金から支払う場合は「預り金」として仕訳をします。
そして月末に会社が負担する分を「未払金」として計上を行い、実際に法定福利費を支払った際に「従業員負担分の預り金」と「会社負担分の未払金」を仕訳計上します。
まとめ
この記事では法定福利費の基本から、間違えやすい福利厚生費との違いについて説明してきました。
また建設業における見積書作成時の注意点や、見積書への記載が義務化されている保険料の算出方法についても詳しく解説しました。
見積書にて法定福利費を明示することが必要ですので、内容を確認の上、しっかりと記載しましょう。
この記事が現在積算の仕事に取り組んでいる人や、積算の仕事に興味を持っている人の参考になると幸いです。