「工事費の中に衛生管理費は必要なの?」
「どうやって衛生管理費を確保するの?」
このようなお悩みを持つ建築積算士の方もいるのではないでしょうか。
結論、安全な工事を行い労働災害を減少するために必要なのが衛生管理費です。
本記事では、衛生管理費の概要と確保手順を解説します。工事現場の安全確保をするために、ぜひ参考にしてください。
この記事の内容
衛生管理費とは
衛生管理費とは、建設工事の安全な進行に必須となる経費のこと。安全衛生経費とも呼ばれます。
建設業法19条の3で定められている「通常必要と認められる原価」に含まれるほど重要な経費の1つです。
衛生管理費に該当する主な経費は、以下のとおりです。
- 足場・手すりなどの設置にかかる費用
- ヘルメットや安全靴などの備品にかかる購入費用
- 教育訓練費
- 健康診断費
これまで衛生管理費には社会保険料や労災保険も含まれていましたが、平成29年3月に施行されたガイドラインの改正により、法定福利費に含まれるようになったので注意が必要です。
そのほか、多くの経費が含まれますが工事の種類や規模、場所などのさまざまな要因により、衛生管理費は異なります。
衛生管理費の重要性が高い理由
衛生管理費が重要とされる理由には、以下の2つがあります。
- 現場の安全性確保を十分に確保するため
- 削減されやすい項目の経費であるため
現場の安全性を十分に確保するため
第一に、現場の安全性を十分に確保するためです。
建設業労働災害防止協会が公開した、平成31年から令和3年における労働災害の発生状況を下記にまとめました。
平成31年/令和元年 | 令和2年 | 令和3年 | |
全産業死傷者 | 125,611 | 131,156 | 149,918 |
建設業死傷者 | 15,183 | 14,977 | 16,079 |
全産業死亡者 | 845 | 802 | 867 |
建設業死亡者 | 269 | 258 | 288 |
出典:建設業労働災害防止協会
建設業労働災害防止協会が出している労働災害の発生状況です。
ここ3年間だけを見ても、建設業の死亡者数は高い割合を占めているため、労働災害防止対策に関する取り組みは必要となります。
その対策の1つが衛生管理費の確保です。
建設業の労働災害件数から、衛生管理費の確保がどれほど重要であるかわかるでしょう。
削減されやすい項目の経費であるため
これまで衛生管理費は、工事の受注金額が下がるからといった理由で、まずはじめに削減されてしまう経費でした。
そこで、労働災害発生に係る1つの要因であると検討されている衛生管理費の対策が行われています。
対策は、以下の5つです。
- 「通常必要と認められる原価」に満たない金額での契約の禁止
- リーフレットの充実
- 衛生管理費の実態に関するフォローアップ調査
- ネット・ポスターなどによる情報の発信
- ホームページやガイドブックによる確保事例の取り上げ
このように対策や施策が国土交通省でも行われるほど、衛生管理費の重要性は高まっているのです。
衛生管理費を確保する手順
衛生管理費を確保する手順を6ステップで解説していきます。
- 元請負人が実施者と負担者を明確にする
- 元請負人が衛生管理費の見積条件を提示する
- 下請負人が衛生管理費の見積と提示をする
- 対等な立場で契約交渉を行う
- 契約書による書面での実施者と負担者の明確化をする
- 請負代金の適切な支払い対応をする
元請負人が実施者と負担者を明確にする
まず、工事に関する具体的内容をもとに、実施者と負担者を明確化します。
下請負人が適正な見積をするには、元請負人が明確な条件の提示を行います。そこで、実施者と負担者を明確にしておかなければ正確な金額が導き出せません。
労働安全衛生法で「衛生管理費の負担は元請負人がする」と定められているので、把握しておきましょう。
元請負人が衛生管理費の見積条件を提示する
実施者と負担者を明確にしたら、工事の内容や着手と完成の時期などの具体的な見積条件の提示が行われます。
工事内容で明記する主な内容は、以下のとおりです。
- 工事名称
- 施工場所
- 施工環境
- 設計図書
- 施工制約
- 工事の全体工程
- 費用負担区分
- 下請工事の責任施工範囲
なお、確定していない部分がある場合は、その理由を明確に伝えなければなりません。
下請負人が衛生管理費の見積と提示をする
次に、衛生管理費の見積を行います。
この際、提示された見積をもとにすることで正確な見積が可能です。
なぜそのような項目と費用で見積を行ったのかについても、明確にする必要があります。
施工経費と別の経費がある場合は、契約書の内訳書に記載しましょう。
対等な立場で契約交渉を行う
最後に、工事請負契約の交渉を行います。
契約交渉で大切なポイントは、見積書はもちろん、建設業法を踏まえること。
ポイントを抑えたうえで、交渉は対等に行うことが重要です。
契約書による書面での実施者と負担者の明確化をする
国土交通省と厚生労働省により、契約時は衛生管理費の実施者と負担者を明確にするようにとガイドラインで示されています。
また、契約書には建設業法で定められている事項の記載が必要です。
契約書への記載事項は、以下のとおり。
- 工事内容
- 請負代金の金額
- 工事着手と完成の時期
- 支払いの時期と方法
- 請負代金の算出方法に関する定め
- 工事変更、損害の金額算定方法に関する定め
- 価格変動による請負代金と工事内容の変更
- 賠償金負担に関する定め
- 工事機器や資材の内容と使用方法に関する定め
- 注文者の検査時期と引渡時期
- 工事完成後の代金支払いの時期と方法
- 保証保険締結に関する定め
- 遅延利息と違約金などの賠償金
- 契約に関する紛争の解決方法
契約は書面に一定事項を明記したうえ、工事着手前に行いましょう。
請負代金の適切な支払い対応をする
契約完了後は、請負代金の支払いをします。
請負代金の支払いは適切に行うことが大切で、明示していない費用の差し引きはしてはいけません。
まとめ:衛生管理費について理解を深め安全な建設工事を行おう
衛生管理費は、重要性が高まっており工事を行うなら確保が必須となる経費です。
衛生管理費を確保することで、工事現場の安全が保証されます。
ぜひ本記事の衛生管理費確保の手順を参考に、衛生管理費を確保して安全な建設工事を行い、労働災害の防止に努めましょう。